生活習慣病について
生活習慣病には、糖尿病や高血圧、脂質異常症(高脂血症)、痛風(高尿酸血症)などがあります。主に運動不足、過食、そして肥満といった生活習慣の不摂生が原因で起きてきます。
生活習慣病は、一つ一つは軽症でも、いくつもの疾患が重なることが少なくありません。そして重なることによって、各症状がひどくなったり、心臓病や脳卒中などの重大な疾患に結びついたりする危険性も高まるのです。
そういった事態を招かないように、生活習慣を改善するための対策をしていきましょう。
基本的には、どの病気であっても、生活習慣の改善、つまり食事療法と運動療法が中心であることは共通しています。必要と判断した場合には薬物療法も併用します。
糖尿病
糖尿病とは、体を動かすエネルギー源である糖(ブドウ糖)を細胞が取り込めなくなって、血液中に糖が溢れてしまう病気です。
健康な人なら、インスリンというホルモンがしっかり働き、血液中の糖を細胞に送り込んでエネルギー源にしたり、あるいは脂肪やグリコーゲンという物質に変えて蓄えたりします。このインスリンが足りなくなったり、足りていてもうまく細胞に作用しなくなったりした状態が糖尿病(耐糖能異常)なのです。
糖尿病の治療
糖尿病の三大合併症
糖尿病は現在のところ、完治させることはできません。ただ、糖尿病そのものは治せなくても、血糖値を正常に保ち、糖尿病による合併症(目、神経、腎臓の合併症)を起こさずに健康を維持することは十分に可能です。そして血糖値を正常に保つ上で重要になるのが、継続的な“コントロール”です。医師の指導のもと、まずは食事療法と運動療法を行います。これだけで正常値になる患者様も多くいらっしゃいます。糖尿病が進行してしまったケースだったり、食事・運動療法だけでは血糖値がうまく下がらなかったりするような場合には、薬物療法やインスリン療法を行うことになります。
糖尿病性網膜症
目の内側には、網膜という膜状組織があり、光や色を感じる神経細胞が敷きつめられています。高血糖の状態が長く続くと、ここに張り巡らされた血管が動脈硬化による損傷を受け、視力が弱まります。進行してしまうと大出血や網膜剥離を引き起こしたり、時には失明に至ったりするケースもあります。また、白内障になる人も多いと言われます。
糖尿病性神経障害
主に足や手の末梢神経が障害されます。その症状の出方はさまざまで、「手足のしびれ」「怪我ややけどの痛みに気づかない」などです。そのほか筋肉の萎縮、筋力の低下や胃腸の不調、立ちくらみ、発汗異常、ED(勃起不全)など、さまざまな神経障害による症状が現れます。
糖尿病性腎症
血液を濾過(ろか)して尿を作る腎臓の糸球体(しきゅうたい)という部分の毛細血管が悪くなり、だんだんと尿がつくれなくなってきます。やがては人工透析と言って、機械で血液の不要な成分を濾過し、人工的に尿をつくらなければならなくなったりします。週に2~3回、定期的に病院などで透析を受けるようになるので、日常生活に大きな影響が及びます。現在、人工透析になる原因の筆頭がこの糖尿病腎症です。
高血圧
高血圧とは、血圧がある程度の範囲を超えて高く維持されている状態です。人の血圧は自律神経によって調整されており、刻一刻と変化しています。朝、緊張している時やストレスがかかっている時などには血圧が上がりますし、夜リラックスしている時などには、低くなります。ですから、一度血圧を測って高かったからといって、すぐに高血圧とは診断をつけませんし、その後に基準値内に下がれば、一概に高血圧とは言えません。血圧のいつも高い状態が継続していることが問題なのです。
高血圧は日本人にはとても多い病気で、40~74歳の人のうち男性は約6割、女性は約4割が高血圧と言われます。
高血圧は放っておくと、常に血管に圧力が加わって、動脈が傷みやすく、動脈硬化の原因になるのが大きな問題です。それと同時に、血液を高い圧力で送り出しているのは心臓ですから、心臓が多くのエネルギーを必要とし、疲弊しやすくなります。つまり高血圧は、血管や心臓などの臓器に障害をもたらすのです。その結果、心不全や狭心症、心筋梗塞といった心臓血管系の病気を招いたり、脳出血や脳梗塞などの脳血管疾患の原因になったりします。
高血圧そのものは無症状のことが多いので、日々の血圧測定や健康診断などで、早めに対策を打つことが大切です。
腎臓にも負担がかかる
高血圧の危険因子
また、なかには腎臓や副腎などの臓器疾患からも二次的に高血圧になるケースがあり、これらを二次性高血圧症と言います。頻度としては高血圧全体の5~10%程度です。診断には血液検査や画像診断が必要です。
高血圧の治療
まず行うべきは、上記のような高血圧の危険因子を知って、そのうえで適正な体重にし、適度な運動を継続的に行い、減塩に努めるなどの生活習慣の改善(食事・運動療法)を心がけることです。
また、医師から薬を処方されたら、指示通りしっかりと飲むことも大切です。
一度薬を飲み始めると、一生やめられないと思っている方が少なくないようですが、食事・運動療法の継続により良くなってくれば、薬の量を減らしたり、やめたりすることも可能です。一度降圧薬を服用し始めたら飲み続けなくてはいけないと考えるのではなく、薬がやめられるように日頃から生活習慣の改善を心がけ、それを継続することが大切なのです。
脂質異常症
脂質異常症(高脂血症)というのは、血液中の脂質、具体的には「コレステロール」や「中性脂肪(トリグリセライドなど)」の濃度が高い状態のことです。
大きく分けて次の3つのタイプがあります。
- 高LDLコレステロール血症
- 低HDLコレステロール血症
- 高トリグリセライド血症
脂質異常症を放置すると、増えた脂質がどんどん血管の内側に溜まって動脈硬化の進行を促進し、ついには心筋梗塞や脳梗塞の発作の原因となってしまいます。
脂質異常症は動脈硬化の大きな危険因子
日本人の死因の第2位と3位を占めているのは、狭心症や心筋梗塞などを含めた心臓病と、脳出血や脳梗塞などの脳卒中です。これらはどちらも、主に動脈硬化が原因となって起こる血管の病気です。死因の第1位は「がん」ですが、心臓病と脳卒中を合わせると総死亡の約30%を占めるので、動脈硬化を防いでこれらの疾患を予防することは生命にとっても、とても重要です。
さらに動脈硬化は、高血圧を悪化させたり、腎臓病などの原因となったりします。
動脈硬化というのは、心臓から体の各部分へ血液を運ぶ動脈が硬くなる疾患です。動脈の内側の壁にコレステロールが溜まり、血管が盛り上がって狭くなり、それとともに血管が硬くなり、もろくなるのです。
そのため、血液の流れが悪くなったり、盛り上がった部分が破れてしまい、中の脂質と血液が混ざることで血栓(血のかたまり)ができて血管を詰まらせてしまったりするのが大きな問題となります。
動脈硬化は年齢と共に進行してきますが、さまざまな危険因子によって進行は促進されます。ですから、それらの危険因子を除いていけば、進行を遅らせることができます。
高血圧が動脈硬化の大きな危険因子の一つであることはよく知られていますが、脂質異常症も重大な危険因子です。
脂質異常症は、自覚症状がまったく無くても、早く治療を始めることが重要です。
脂質異常症の治療
治療は、冠動脈疾患など明らかな動脈硬化の病気が無い場合には、生活習慣の改善と薬物療法が基本です。
生活習慣改善の主な内容は、禁煙、バランスのとれた食生活、適正体重の維持、そして適度な運動です。なかでも特に重要なのが食事(食事療法)で、これは適正体重の維持とも深く関わってきます。
痛風
痛風は、その発症前に血液の尿酸濃度が高くなり過ぎている状態が長く続きます(高尿酸血症)。それを放置すると、尿酸が関節の中で固まって結晶になるため関節炎を起こし、ある日突然、足の親指の付け根などの関節が赤く腫れて痛み出します。これがいわゆる「痛風発作」です。その痛みは耐えがたいほどで、「痛風」という病名には「風に吹かれただけでも痛い」という意味合いが込められています。
痛風を起こす人は、そうでない人よりも心筋梗塞や脳梗塞になりやすいことが知られています。これは、痛風に糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病が合併しやすく、動脈硬化が早く進むためです。
この病気の研究は進み、良い薬も開発されたため、正しい治療を受け、生活改善をすれば、まったく健康的な生活が送れます。しかし放置すると怖いので、専門知識を持った医師に相談の上、きちんと治療を受けることが大切です。
痛風の原因となる高尿酸血症
高尿酸血症は内臓脂肪の蓄積によってもたらされる病気です。
内臓脂肪が蓄積されると、脂肪細胞からたくさんの遊離脂肪酸が分泌されます。それが血流に乗って肝臓に運ばれると、プリン体の代謝を過剰にし、その老廃物である「尿酸」がたくさん作られるようになります。血液検査によって尿酸値が7mg/dl以上確認されると、高尿酸血症と診断されます。この状態が長い期間続くと、痛風や尿路結石といった激痛を伴う病気になりやすくなります。
高尿酸血症の患者数は、現代では500万人以上と言われており、痛風患者の10倍以上です。その7割にメタボリックシンドロームの可能性があると言われています。
前述のように、高尿酸血症が進行していくと、結晶となった尿酸が関節・足先や耳たぶなどに溜まります。そしてその部分に炎症が起こり、激痛を伴う痛風発作が起こります。また腎臓に溜まって結石ができると背中に痛みが生じ、尿管や膀胱に移行すると、その部分で炎症を起こし、激痛を招きます。
高尿酸血症の予防には、食事の量とともにアルコールの量を減らし、脂肪分の多い食事やプリン体の多い食事(ビール・レバー・魚卵・肉類など)を控えめにする、水分と野菜を多く摂る、軽い有酸素運動を行う、といった生活改善が必要です。
メタボリックシンドロームにも要注意
肥満、特に内臓まわりに脂肪が溜まって、おなかがぽっこり出ている「内臓脂肪型肥満」の方は、血圧、血糖値、脂質値などの異常を来たしやすく、その結果、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病が重なりやすいことがわかっています。内臓脂肪の量はCTなどによって測る方法がありますが、簡易的な手段として腹囲の測定があり、健康診断などでもよく計測されます。
内臓脂肪型肥満があり、高血圧、高血糖、脂質異常症のうちの2つ以上が重なっている状態を「メタボリックシンドローム」と言います。
メタボリックシンドロームの患者さんでは、血圧、血糖、脂質などの値がそれほど異常でなくても、それらが重なることで動脈硬化が進展しやすくなり、心筋梗塞や脳血管障害などの心血管事故の危険率を高くすることが知られています。